「インプラント患者目線での安心医療とは」 - 第42回(社)日本口腔インプラント学会・学術大会

会場入口 大阪国際会議場

▲ 会場入口

▲ 大阪国際会議場

■ 第42回(社)日本口腔インプラント学会

2012年9月21日(金)から23日(日)の3日間にわたり、大阪市の大阪国際会議場で「第42回(社)日本口腔インプラント学会・学術大会」が開催され、4,000名を上回る歯科医師・歯科従事者が集結しました。

※『日本口腔インプラント学会』は、日本の口腔インプラント学の振興・向上を推進することを目的とし、1986年に日本歯科インプラント学会と日本デンタルインプラント研究学会が合併して設立されました。現在、正会員数12,600名にものぼり、年1回「総会・学術大会」が開催されています。大会では、多数の一般講演のほか、特別講演、教育講演、シンポジウムなどが行われ、歯科従事者の知識や技能の研鑽・習得が図られています。

屋上庭園 特別会議場
▲ 屋上庭園

▲ 特別会議場

今学会では、「インプラント患者目線での安心医療とは」をメインテーマに掲げ、患者様目線のインプラント治療に対する安心を改めて考えることを目的にプログラムが組み込まれました。プログラムの内容は、昨今のインプラント治療後のトラブルについて、より安全で安心なインプラント治療を追及するものでした。インプラントチェックリストの作成、インプラントカードの普及への取り組みなど、学術大会の参加者によって安全・安心の集大成となる議論が交わされました。

下記に、本学会で特に注目を集めたプログラムの一部を簡単にご紹介致します。


■ 注目を集めたプログラム

【理事長講演】 「今、日本口腔インプラント学会がなすべきこと」

座長: 江藤 隆徳 先生 / 講演者: 渡邉 文彦 先生(学会理事長)


国民がインプラント治療の信頼性を高めるために、次の取り組みを主に行うと述べられました。

  • インプラント治療のガイドラインの作成と推進を図る。
  • トラブルを抱えた患者様の相談窓口の整備と拡充。
  • 歯科医師の知識や技術の普及のため、口腔インプラント学会以外でも研修会を企画する。
  • 専門医の標榜ができるようにするため、口腔インプラント専門医の承認を厚生労働省に働きかける。
  • 口腔インプラント学は今や歯科医師に必須であるため、卒前、卒後教育の充実を図る。

【基調講演】 「患者目線からの安心感提供を実践していますか」

座長: 江藤 隆徳 先生 / 講演者: 川添 堯彬 先生


厚労省が国民に対して良質な医療を提供する体制を確保するために、様々な政策が進展しているが、歯科治療においても、特にインプラント治療は外科的侵襲を伴う手術のリスクや咬合問題での永続性が求められる上でのリスク、また治療費が高額に及ぶ場合など、安全や安心を損なう場合が多くなることを発表されました。インプラント治療の安全を脅かすリスク因子は二点あり、全身的偶発症(心臓血管系に問題のある患者・内分泌系に問題のある患者など)と局部的偶発症(局所麻酔に伴う偶発症、観血的・非観血的処置に伴う偶発症など)であると述べられました。最後に、安全な医療提供は医療の質に関わる最重要課題で、医療の基本であり、患者様の安全につながり、当該医療に対する信頼性につながっていくため、インプラント医療で残された課題を再考し、ここの実践や共同行動へつなげていくことが肝要であるとお話されました。


「インプラント治療における情報提供を考える」

座長: 赤川 安正 先生/講演者: 阿部 智 先生


「インターネット検索によるインプラント関連情報」について発表されました。「良好なホームページ」と「注意が必要なホームページの特性を調べるため、キーワード「インプラント」で検索した、検索結果上位20件と検索連動型広告を対象に医療広告ガイドラインの有無を分析されました。歯科医院サイトが約7割を占め、歯科医院のホームページは、口コミサイト(歯科医院の紹介サイト)よりガイドラインと一致していないことを述べられました。また、費用を強調したサイトや広告枠に多く掲載されているサイトは信頼性が低く質が悪い場合があり、情報のアップデートができていない(更新時期が少ない)サイトは、注意が必要であるとお話されました。結論では、口コミサイトと学会ホームページは比較的良好なサイトであるとまとめられました。

【シンポジウム@ 教育委員会主催】
「口腔インプラント治療指針とその活用−企画の趣旨−」
座長: 松浦 正朗 先生
講演者: 加藤 仁夫 先生、廣瀬 由紀人 先生

口腔インプラント学会は、国民へ適切なインプラント治療の手助けとなるよう、インプラント治療を行う際の検査、診断、インフォームド・コンセント、外科処置、補綴処置、メインテナンス、合併症への対応などを示した"口腔インプラント治療指針"を策定し、今年の夏に発行されました。講師の方々によって、"口腔インプラント治療指針"に沿った基本的なインプラント治療の流れの確認や、トラブル回避の要点などの解説がありました。この指針を活用した歯科医師からの意見を収集し、さらに円滑で安全な治療が提供できるようにするため"インプラント治療のガイドライン"の策定に役立てたいと述べられました。
【シンポジウムA 医療・社会保険委員会主催】
「保険収戴広範囲顎骨支持型補綴装置の治療指針と臨床」
座長: 伊藤 隆利 先生
講演者: 和田 康志 先生、朝波 惣一郎 先生、
久保 隆靖 先生

平成24年4月より、病気や事故などで広範囲にわたって顎の骨を失ってしまった場合に、国が定めた条件を満たせば、インプラント義歯治療(正式には広範囲顎骨支持型補綴装置)が保険適用されるようになりました。費用の負担が少なく、咀嚼、嚥下、会話機能などの回復ができるため、この制度が活用されることで、健康福祉に貢献できると述べられていました。臨床家の先生方は、これまでの治療例を紹介し、治療導入の重要性を主張されていました。

大ホール
▲ 大ホール
会議室
▲ 会議室

■ ランチョンセミナー

1. SCA Kit・SLA Kitが可能にした低侵襲で
確実なサイナスアプローチテクニック
〜CGF・AFGとのコラボレーションの優位性〜
座長: 水上 哲也 先生
講師: 洪(徳山) 性文 先生 (吉祥寺セントラルクリニック(歯科・矯正歯科・審美歯科・内科・皮膚科)
共催: 株式会社フォレスト・ワン

ソケットリフト法での、SCA Kit(SLA Kit)の使用について動画を用いて説明されました。器具すべてにストッパーを装着できるため、洞粘膜に損傷を与えることなくより安全に手術が行えることをお話されました。また、CGF・AFGについても患者様から採血した血液に添加物を加えずに血液生成物を作製する使用法を動画を使って説明されました。


2. インプラント治療における骨造成と長期安定
講師: 山道 信之 先生(山道歯科医院
共催: 京セラメディカル株式会社

外科主導型、補綴主導型、生体主導型のインプラント治療を比較し、生体主導型にするための診療項目と方法を説明されました。インプラント治療を安全に導くには、CTによる術前の解剖学的診査を行い、患者様にしっかり説明をしなければならないことを強調されていました。



■ イブニングセッションB

インプラント治療における骨造成と長期安定
座長: 市川 哲雄 先生
講師: 佐藤 正樹 先生、石田 雄一 先生

佐藤先生は、add画像法やバイトアイのようなシリコーンバイトを画像処理する検査と、弱い噛みしめから強い噛みしめへの時系列測定が可能な唯一の咬合接触圧検査機器であるT-スキャンVなどの検査法とその特長の概説をされました。石田先生は、咬合接触で気をつけるべき点を整理するとともに、機能時の咬合検査の一つである主機能部位についても、インプラント治療における発現状況とその意義について言及されました。


■ 一般口演・イブニングセッション

【長期観察(3年以上)】
下顎中切歯抜歯即時インプラントの10年経過症例
座長: 池邉 一典 先生
講師: 玉木 仁 先生 (日本橋インプラントセンター

前歯部のインプラント治療で、ナローインプラントをフラップレスで舌側寄りに埋入を行った10年経過症例を発表されました。主訴は右下1番前歯部の破折で、術前はCT撮影などの詳細な診断をし、術後は経過良好で審美的回復を得ることができたと述べられました。前歯部のインプラント治療を行う上で歯肉の退縮は重要な問題であるナローインプラントをフラップレスで舌側寄りに既存骨内に埋入した結果、歯肉の温存及び審美的結果に役立ったのではないかと考察されました。

【一般口演 手術術式・外科処置1】
歯科用顕微鏡下で行った前歯部インプラントの
2次手術2症例について
座長: 小澤 重雄 先生
講師: 高田 尚美 先生 (小金井歯科

プラットフォームスイッチングタイプ(インプラントとアバットメントの接合部の骨の吸収がほとんどないとされているタイプ)のインプラント2次手術を、歯科用顕微鏡下で行った2症例について発表されました。手術侵襲を最小にして、術後の瘢痕形成を抑制し、治癒期間を短縮できたと述べられていました。また、「外科処置」「上部構造のリスクファクター」、「インプラント周囲組織」、「全身疾患とインプラントの関係」をそれぞれについて適切に把握、診断できることが重要と述べられました。

【一般口演 手術術式・外科処置1】
CTデータを基に院内での作製ができる歯牙支持型
サージカルテンプレートに関する臨床的検討
座長: 樋口 大輔 先生
講師: 加来 敏男 先生 (医療法人 加来歯科

ストローマン社のサージカルガイドシステムの有効性について発表されました。術前は、スキャンテンプレートを使い歯科用CTで撮影、シミュレーションソフトで分析し、インプラントの埋め入れ位置と計画を行ったと述べられました。このソフトから得られるデータでスキャンテンプレートを加工して手術時に使用するドリルガイドが完成させ、手術時にはサージカルプロトコールを使用して計画した位置と最終的な位置が一致したことを述べられました。

その他、多くのインプラント関連企業が展示販売を行っていました。当インプラントネットもブースを出展し、全国から多くの先生方にお立ち寄りいただきました。

インプラントネット展示ブース
▲ インプラントネット展示ブース
会場案内
▲ 会場案内

■ 第42回(社)日本口腔インプラント学会に参加して

インプラント治療に対する要求や関心が高まっている現状の中、いかにして患者様目線での安心・安全なインプラント治療を提供していくかについて発表された先生方が多かったのが印象的でした。これまでに得たエビデンスをもとに、基本的な治療の流れについて改めて見解を述べるセッションも多く見られ、治療水準の底上げが期待できるものでした。インプラントネットでは、インプラント治療が、患者様の心と体の健康の向上に貢献できるものとなるよう、適切な情報の提供に努めてまいります。

次回、第43回大会は、2013年9月13日(金)〜16日(日)に福岡で開催されます。

※講演の発表内容については、当サイトにおいて必ずしも保証するものではございません。
レポート:インプラントネット事務局

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