歯肉弁根尖側移動術(APF)とは?インプラント治療の前に知っておきたいこと

虫歯や歯周病が進行すると、抜歯が必要になることがあります。「抜歯をしたい」と思ってすすんで抜歯を希望する人は基本的にはいないですよね。健康な歯を維持できるのであれば、抜歯はしたくないというのがほとんどではないでしょうか。

虫歯や歯周病が進んでしまった場合でも抜歯せずに歯を残すことができる治療方法が「歯肉弁根尖側移動術(APF)」です。患者さんのケースによりますがAPFによって歯を残せることがあります。

しかし、APFは誰でも受けられる治療ではなく、虫歯が歯の根の深くまで進行し治療により歯を支えるために必要な長さが足りなくなってしまった場合は、治療が受けられず抜歯が必要となります。
歯肉弁根先側移動術(APF)について詳しく解説します。

更新日:2024/03/04

歯肉弁根尖側移動術

■目次

  1. 歯肉弁根尖側移動術(APF)とは
  2. 歯肉弁根尖側移動術(APF)の適応症
  3. 歯肉弁根尖側移動術(APF)のメリット・デメリット
  4. 歯肉弁根尖側移動術(APF)のメリット
  5. 歯肉弁根尖側移動術(APF)のデメリット
  6. 歯肉弁根尖側移動術(APF)の流れ
  7. 歯肉弁根尖側移動術(APF)の費用
  8. 自分の歯を残す3つのメリット
  9. 精神面でプラスになる
  10. 食事の歯応え
  11. インプラントなどにする時期を遅くできる
  12. まとめ

歯肉弁根尖側移動術(APF)とは

歯肉弁根尖側移動術

歯肉弁根尖側移動術(APF)とは、虫歯や歯周病で抜歯が検討される歯を残せる可能性がある治療方法です。

歯肉弁根尖側移動術(APF)は歯周外科手術の1つで、歯肉(歯茎)の位置を意図的に下げて歯周ポケット(歯と歯茎の隙間)を小さくし、歯に付着している歯肉を増大(または維持)させる治療方法です。

「抜歯をしてインプラントにした方が良いかもしれない」と勧められた症例でも、歯肉弁根尖側移動術を受けることでご自身の歯を残せることがあります。また、インプラントに比べて費用が少なく済むことが多いでしょう。

ただし、歯肉弁根尖側移動術(APF)では歯肉の位置を下げるため、歯の根の部分が大きく露出します。歯肉弁根尖側移動術(APF)の後には被せ物が必要で、被せ物の費用によってはインプラントと大差ない費用がかかることもあります。

歯肉弁根尖側移動術(APF)の適応症

歯肉弁根尖側移動術(APF)が適応となるのは、虫歯や歯周病が進行している歯の場合です。

虫歯でAPFが行われる場合は、歯と歯茎の境目の下にまでみられるケースが考えられます。
歯周病では歯周ポケットが約5mm~6mm程度まで深くなっていると歯肉弁根尖側移動術(APF)が適応されることが多くなります。角化歯肉がある程度残っている、歯冠の長さ(この場合は歯肉から出ている歯の白い部分の長さのこと)を長くしたい場合もAPFが適応です。

歯肉弁根尖側移動術(APF)のメリット・デメリット

歯肉弁根尖側移動術

治療方法にはメリットやデメリットがあります。

歯肉弁根尖側移動術(APF)のメリット

・病的な歯周ポケットの一部を取り除くことができる
・歯に付着している歯肉を増大・維持でき、下がりにくい歯肉が獲得できる
・歯肉のラインが整って見た目がきれいになる可能性がある
・虫歯や歯周病が進行していたとしても、抜歯せずに済む可能性がある
・インプラント治療に比べると費用が安く済むケースが多い

歯肉弁根尖側移動術(APF)のデメリット

・外科的な手術であり、治療後は痛みや腫れを伴う可能性がある
・手術箇所に傷が残ることがある
・歯肉が改善するまでには2週間~3週間くらいかかる
・自費診療となるため治療費が高額になる
・処置後に被せ物の治療を受ける必要がある
・歯肉が引き締まることによって歯が余計に長く見える場合がある

歯肉弁根尖側移動術(APF)の流れ

歯肉弁根尖側移動術

1.骨膜という組織を骨に残すようにして、歯肉を切開します。

2.歯石や汚染された組織が付着している部分は取り除きます。

3.切開した歯肉の先を根尖側(歯の根っこの先端)に動かし、縫合して固定します。

4.治療後は歯肉が回復するまで待ちます。歯肉は歯冠側(歯の上の部分)に向かって改善し、歯周ポケットがなくなり引き締まります。治癒期間は2週間~3週間くらいです。

歯肉弁根尖側移動術(APF)の費用

歯肉弁根尖側移動術

歯肉弁根尖側移動術(APF)は自費診療での対応が多く、歯科医院によって治療費が大きく異なります。金額の目安は、1本につき約5万円~7万円くらいです。

治療する歯の本数によって費用が異なる歯科医院も多く、治療を考える際には治療を受ける歯科医院にて費用をよく確認しておきましょう。

2024年3月 株式会社メディカルネット調べ

自分の歯を残す3つのメリット

歯肉弁根尖側移動術

抜歯を避けて天然歯を残すことには、さまざまなメリットがあります。

精神面でプラスになる

虫歯や歯周病が進行してダメージを受けた組織は、治療によりある程度の回復は見込めますが、完全に元の状態には戻りません。

抜いてしまった歯は二度と生えませんし、大きく下がってしまった歯肉が元の位置へ戻ることも、溶けてしまった歯槽骨が元通りになることも基本的には無いでしょう。歯がない状態、歯肉が下がっている状態は見た目的にも良くなく、口元のコンプレックスに繋がってしまいます。

歯を抜くと歯肉はさらに下がりやすく、ブリッジや入れ歯が口の中に入った後に気になってしまう方も少なくありません。
自分自身の歯が残せるのであれば自分の歯を使うことができ、見た目も気になりづらいため、精神面でもプラスになると考えられます。

食事の歯応え

インプラントは「第二の天然歯」といわれています。
たしかに天然歯(自分自身の歯)に近い噛み心地を得られる治療方法ですが、それでも天然歯と全く同様とはいえません。

天然歯には「歯根膜」とよばれる組織があり、歯触りや歯ごたえを伝えるという役割を果たしています。また、噛むときのクッションとしての機能もあり、過度な力が歯に伝わるのを防いでいます。

非常に薄くても大事な役割を担ってる歯根膜ですが、インプラントでは歯根膜はありません。

インプラントなどにする時期を遅くできる

歯肉弁根尖側移動術(APF)を受けても将来的に抜歯になることもあります。
それならば最初からインプラントにしておけばよかったのかというとそうではありません。

インプラントは長く使うことができますが、インプラントにしてから10年~15年の累積生存率(インプラントが問題なく使える状態で口腔内に残っている率)は上顎で90%ほど、下顎で 94%ほどといわれています。つまり、治療をした人の約9割は10年以上インプラントを使えるということです。

インプラント治療を早く受けると、それだけ早くインプラントの寿命を迎えてしまう可能性が高くなります。歯肉弁根尖側移動術(APF)を受けてなるべく天然歯を残しておくことで、インプラントや入れ歯などにする時期を遅らせることができるかもしれません。

まとめ

歯肉弁根尖側移動術

歯肉弁根尖側移動術(APF)は、虫歯や歯周病が進行している歯でも抜歯せずに残せる可能性を高める治療方法です。ただし、治療方法の対象となるかどうかは歯科医師の判断が必要となります。もし、抜歯が必要だといわれたものの歯肉弁根尖側移動術を希望したい場合は、セカンドオピニオンを希望するのも選択肢のひとつといえるでしょう。

歯肉弁根尖側移動術のメリットやデメリットなども参照したうえで検討していただければ、と思います。

記事監修

歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。

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記事監修

歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Natureに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。