インプラント治療は糖尿病でもできる。血糖値のコントロールがカギ

インプラント治療を受けたいけど糖尿病だから受けられない、と思っていませんか?糖尿病の方は骨が弱くもろくなりやすく、免疫力が低下する関係でインプラント治療が難しい場合があります。ですが、条件が整えばインプラント治療を受けることができるかもしれません。糖尿病でもインプラント治療を諦めないでください。糖尿病の方のインプラント治療の注意点や確認事項を解説しますので参考にしてみてください。

更新日:2021/12/02

インプラント治療は糖尿病でもできる。血糖値のコントロールがカギ

■目次

  1. 糖尿病とは?
  2. 糖尿病とお口の関係性
  3. インプラント治療を受ける事ができる目安
  4. インプラント治療を受ける時のポイント
  5. インスリン注射や血糖降下剤を服用している場合

糖尿病とは?

糖尿病(Diabetes Mellitus)は、身体がインスリンの使い方や作り方に問題が起き、血液中を流れるブドウ糖という糖(血糖)が増えてしまう病気です。インスリンは膵臓から分泌されるホルモンであり、血液中の糖を一定の値に保つ働きをしています。
血糖値(血液中のブドウ糖濃度)が病的に高まったまま放置してしまうと、増えすぎたブドウ糖の影響で血管が傷つき、将来的に認知症や心臓病、腎不全、失明といった、より重い合併症につながります。
また、一定以上に血糖が高まると尿中にもブドウ糖が出て尿が甘くなることから糖尿病の名が付けられました。

Ⅰ型糖尿病
Ⅰ型糖尿病は遺伝によって起こる、先天性の糖尿病です。
主に自己免疫によって起こる病気と言われています。 自分の体のリンパ球が誤って、インスリンを生産する膵臓にある膵島β細胞を破壊してしまいます。
子どもや青年など、若い年齢の人が発病する傾向にあります。
インスリンを生産できなくなるため、注射で人工的にインスリンを補う治療を行います。
Ⅱ型糖尿病に比べて免疫力が低下するため、Ⅰ型糖尿病の方はインプラント治療を行えない可能性が非常に高いです。

Ⅱ型糖尿病
Ⅱ型糖尿病は遺伝的要素のほかに、運動不足や食生活など生活習慣によって起こるといわれています。成人してから発症することが多く、肥満の方がかかりやすい傾向にあります。
膵臓からインスリンが分泌されているが、インスリンの働きが悪くて血糖値が下がらない(インスリン抵抗性)場合や、インスリンの分泌が減る(インスリン分泌低下)場合があります。まずは運動療法や食事療法による治療を行い、改善が見られない場合はインスリンの投与が行われます。

糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、末端の神経障害(勃起障害・神経壊死)などの合併症が明らかに出ていない軽度な症状の場合、自覚できる症状として「疲れやすい」「傷が少し治りにくい」などがあります。突出した症状が無いため、知らないうちに進行してしまう事が多いです。

糖尿病が進行すると免疫力が低下するため、歯周病を引き起こしやすくなると言われています。 また、インプラントが骨と結合する過程で起こる「骨結合(オッセオインテグレーション)」が正常に起こらず、インプラントの脱落に繋がることもあります。
そして、糖尿病の方は傷口の治りにくくなります(創傷治癒遅延)。そのためインプラント治療によってできた傷口から感染を引き起こす可能性があります。

しかし、必ずしも糖尿病の方はインプラントができないということではありません。

歯周病の治療と血糖値のコントロールがうまくできていれば、インプラント治療も十分可能になります。

糖尿病とお口の関係性

糖尿病になると、唾液の分泌量が減るためお口の中が乾燥しやすくなります。そのため唾液による自浄作用や抗菌作用が低下し、お口の中の細菌が繁殖しやすく、虫歯や口臭に繋がります。
また、糖尿病にかかると免疫力が低下するので歯周病になりやすく、治りにくくなる傾向にあります。
糖尿病は歯周病とも深い関係があります。出血や膿が出るような炎症を起こした深い歯周ポケットからは、炎症を引き起こす化学物質が血管を経由して体中に放出されています。炎症を引き起こす化学物質は、血液中に入り込むとインスリンの効果を低下させます(インスリン抵抗性)。そのため歯周病は糖尿病を悪化させてしまう原因と言われています。
歯周病の治療を行うことで、血糖値のコントロールがよくなったという報告もあります。

インプラント治療を受ける事ができる目安

患者さんによって糖尿病の症状・病態が異なりますので、全ての人がインプラント治療を受けられるわけではありませんが、治療可能な目安として参考にしてください。

・血糖値のコントロールができている(HbA1cが6.9%以下である)
・空腹時の血糖時が180(mg/dl)以下である
・口腔内の清掃が行えている


血糖値をコントロールするポイント
・血糖値を定期的にはかり、把握する
・禁煙する
・飲酒は適正量、あるいは控える

食事療法
・1日に必要なエネルギー量に見合った食事をする
・塩分摂取量を減らす
 1日男性7.5g未満、女性6.5g未満が推奨量
・栄養バランスのとれた食事にする
 炭水化物 50~60%、脂質15~20%、たんぱく質20~25%程度が理想的な栄養比率
・1日3食を規則正しく食べる
・ゆっくりよく噛んで食べる
・食事の内容を記録する
・急激な糖の摂取を控える

運動療法
・適度な運動を行う
 1日に10~30分程度、ウォーキングであれば1日8000歩~10,000歩が目安
・寒い日、暑い日は無理に運動を行わないようにする
・食事後1時間から1時間半後に運動をする

※運動療法を行う場合は、必ず低血糖に対する準備を行ってから運動してください。

薬物療法
・医師の指示通りに薬を服用する
・飲み忘れがないように注意する

※食事療法、運動療法、薬物療法は糖尿病治療の担当医と相談し、患者さんに合った適切な方法で行ってください。

インプラント治療を受ける時のポイント

糖尿病の方がインプラント治療を受ける上でのポイント・注意点についてご紹介します。

注意点
・歯科医師だけでなく、糖尿病治療の担当医と綿密な連携をとる
・術後に服用する抗生物質が低血糖を引き起こす副作用がない薬を服用する
・外科手術中に使用する局所麻酔薬の種類を確認し、高血糖を誘発しないものを使用する
・低血糖発作を防ぐために、手術直前の飲食を控える
・術前の血糖値の検査を正確に行う

ポイント
・術中に低血糖発作や、ストレスによる高血糖発作が起きる可能性があるので、生体モニタリングやブドウ糖の投与が行える歯科医院を選んで治療を行う
・HbA1cは手術直前の数値ではなく、1か月程度平均して歯科医院あるいは糖尿病治療担当医から示された数値が下回っていることを確認する
・必要に応じて、外科手術前に予防投与の目的で抗生物質を服用し、細菌感染のリスクを下げる
・術前、術後のプラークコントロール(お口の中の清掃)をしっかりと行う
・低血糖時に服用するブドウ糖を事前に歯科医院に渡しておく

インスリン注射や血糖降下剤を服用している場合

インプラント治療の難易度や埋入本数により、治療後の食事に制限が必要な場合があります。 食事制限を行う場合、インプラント手術当日の血糖降下剤の服用やインスリンの自己注射に問題を生じることがあります。
手術後に腫れや痛みなどで食事が十分取れなかった場合、いつも通り決まった時間に血糖降下剤の服用やインスリン注射を行ってしまうと、血糖値が下がりすぎてしまい低血糖症となってしまいます。
糖尿病によりインスリン注射や血糖降下剤を服用されている方はカウンセリングの段階で必ず担当歯科医師に伝え、糖尿病の担当医と連携して治療方針を決定することが必要です。身体に負担がかからない治療方針、計画を立ててインプラント治療を行ってくれるでしょう。
歯科医師・糖尿病治療担当医とよく相談し、リスクをできる限り減らしてインプラント治療を受けられるようにしましょう。

上記の内容は患者さんによって異なる可能性がありますので、詳しくはインプラント治療を受ける予定の歯科医院にお問い合わせください。

記事監修

歯科医師 古川雄亮 先生

歯科医師 古川雄亮 先生

国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Natureに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。

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記事監修

歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Natureに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。