インプラント治療に資格はいるの?歯科医師に必要な知識とは

インプラント治療は歯科医師であれば誰でも行えます。しかし、安全にインプラント治療を行うためには、一般歯科治療の知識と技術以外に専門性が要求されます。感染を起こさない外科処置や、噛む力に耐えられるインプラントの設計、インプラントの特性を理解した噛み合わせの調整などさまざまな技術と知識が備わることによって歯科医師は安全なインプラント治療を行うことができます。

更新日:2020/11/25

■目次

  1. インプラント治療をするのに資格はいるの?
  2. インプラント治療が一般歯科と異なる点について
  3. インプラント治療を行うために必要な知識
  4. 専門的な知識を得るために

インプラント治療をするのに資格はいるの?

失った歯の見た目や機能を補う治療法として、ブリッジ・入れ歯・インプラントがあります。インプラントは、歯の根の代わりを骨に埋め込むことで独立した歯を作成することができ、周囲の歯に負担をかけることがなく、他の治療法と比較すると自分の歯のようにしっかりと噛める特徴があります。

インプラント治療は歯科医師であれば誰でも行えるもので、治療の選択肢を増やすためにインプラント治療を手がける歯科医師は多くいます。しかし、安全にインプラント治療を行うためには、一般歯科治療の知識と技術以外に専門性が要求されます。ここでは、インプラント治療が一般歯科と異なる点やインプラント治療を行うための必要な知識などについてご紹介します。

インプラント治療が一般歯科と異なる点について

どのような治療でも診査・診断・治療技術は重要ですが、インプラント治療の場合、これらが適切に行われなければ、大きなトラブルにつながります。
インプラント治療は、顎の骨に人工歯根(チタン製)を埋め込む外科手術が必要です。顎の骨の中には神経や血管などの組織があり、インプラントを埋め込む箇所と近接していることもあります。他の組織を傷つけた場合、日常生活に支障をきたすような後遺症が残ることもあるので、細心の注意が必要です。

インプラントを長く使うための知識が必要
一般歯科の治療は、歯や歯茎にある痛みや症状の原因部分を取り除いて、回復、または維持させる治療がほとんどですが、インプラント治療は、埋め込んだチタンが身体の一部として機能し続けられるようにする治療です。そのため、一般歯科とは異なる知識や技術が求められます。
例えば、感染を起こさない外科処置や、噛む力に耐えられるインプラントの設計(種類の選択、適切な本数、埋め入れる位置など)、インプラントの特性を理解した噛み合わせの調整などのスキルです。

インプラント治療を行うために必要な知識

解剖学や組織、微生物学、生体材料学などの基礎的な知識も必要ですが、下記の分野の知識や技術が重要視されています。

【歯周病】
歯周病の方にインプラント治療を行うと、インプラントの周りにも歯周病原細菌が感染し、歯周病と似たような症状(インプラント周囲粘膜炎インプラント周囲炎)が起こり、最悪の場合には顎の骨から抜け落ちてしまうこともあります。
したがって歯周病の方は、適切な歯周病治療の処置を受けてから、インプラント治療を始めることが必要です。また、これまで歯周病になった経験のない方も、インプラント治療後に発症する恐れがありますので、定期的な管理を続けて、歯周病原細菌を増殖させないようにする必要があります。

>>インプラント治療と歯周病治療の関係

【口腔外科】
インプラント治療では必ず外科手術が必要です。
歯茎を切って顎の骨に穴をあけてチタンを埋め込むため、埋め込んだ部分からの感染のリスクがあり、適切な対策が必要です。インプラントを支えられるだけの骨が無い場合は、顎の骨を新たに作る処置が必要となり、その知識と技術が必要となります。

>>インプラント治療で行われる口腔外科

【補綴 [ ほてつ ] 】
上部構造(人工歯)の設計、作製、装着するには、噛み合わせについて正しい理解が必要です。設計や調整を誤ってしまうと、インプラントのパーツ部分が破損したり、顎の骨から抜け落ちたりすることが起こります。また、噛み合う歯が自分の歯の場合、炎症を起こしたり、すり減ってしまうこともあります。

>>補綴[ほてつ]歯科とは

専門的な知識を得るために

これまでは、インプラント治療を取り入れたいと思った歯科医師が、インプラントの基礎について学ぶ講習会に参加したり、インプラント治療を行う歯科医師の下で教わるなどして、独自に知識や技術を学ぶ傾向にありました。
しかし、数年前より、歯学生のカリキュラムの中に「口腔インプラント学」が加わり、講義を受ける時間は大学によってばらつきがあるものの、すべての歯学生がインプラントの基礎について学んでいます。治療実習については、歯科大学の半数でしか行われていませんが、今後はさらに充実していく動きがあり、インプラントが特別な治療方法ではなくなりつつあります。

基礎的なことを学んだ後も、下記のような学会や勉強会などで新たな知識や技術を学んだり、様々な歯科医師が手掛けた治療例を共有、討論したりし、見識を高めている歯科医師もいます。

・日本口腔インプラント学会や日本顎顔面インプラント学会など、国が公的に認定している学術研究団体に所属
・スタディグル―プ(特定の歯科治療の知識や技術に関心がある有志の集まり)に所属
・インプラント治療の診断や技術を高める講習会へ参加

>>日本口腔インプラント学会のインプラント専門医とは


適切な治療を受ければインプラントは優れた機能を果たします。しかし、知識や技術の不足した歯科医師の下で治療を受けたために、トラブルにつながってしまうケースもあります。

インプラント治療は急いで決断する必要はありません。インプラント治療で迷っている場合、入れ歯という選択肢もあります。入れ歯が合わないと感じれば、インプラントを選択することも可能です。担当の歯科医師やスタッフと相談し、治療内容をよく理解し、納得してから進めましょう。

記事監修

歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Natureに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。