■目次
記事のポイント3つ
・インプラント治療には以下の6つの主なトラブルがある
固定不良、インプラント周囲炎、麻痺・しびれ、被せ物の破損、上顎洞炎、異常出血などが代表的。
・トラブル時はまず治療を受けた歯科医院に相談する。
・困ったときは他の歯科医院でのセカンドオピニオンや消費生活センター(188)を活用。
インプラントの主なトラブルと対策方法
適切な検査や手術が行われなかった場合、インプラント治療の前後にさまざまなトラブルが発生する可能性があります。特に問題になりやすい6種類のトラブルと対処法を紹介します。
①インプラントが固定されない
インプラントの主なトラブルに、インプラントが上手く骨に固定されていないことが挙げられます。
手術の際にインプラントを埋め込む場所や深度が適切でなかったり、インプラントが顎の骨を貫通してしまったり、手術用のドリルがオーバーヒートを起こしたりすると、インプラント体が骨と結合しない危険性があります。
結合せずにインプラントの固定が弱まると、インプラント体や人工歯が抜け落ちてしまう可能性があります。こうした事態を避けるために、手術前に精密検査を受けて正確な生体情報を集めた後の手術が求められます。
②インプラント周囲炎になる
インプラントの主なトラブルにインプラント周囲炎があります。インプラント周囲炎になると、インプラント体周囲にある組織の細菌感染により、歯周病の症状が引き起こります。手術時の環境が不衛生で、手術後のメンテナンスが適切でないと、発症リスクが高まります。
インプラント周囲炎の進行でインプラント体が脱落する可能性も出てきます。治療の後にメンテナンスを受け、インプラントの周囲にある組織の状態を良好に保つことで、インプラント周囲炎の発症リスクを低下させることが大切です。
③麻痺やしびれが起こる
インプラントのトラブルに麻痺やしびれが起こることが挙げられます。インプラント治療を終えた後に痛みや腫れが見られることがありますが、長期的に続く場合は注意が必要です。治療後に処方された痛み止めを飲んだ後も症状が収まらない場合、何らかのトラブルを疑ったほうがいいでしょう。
痛みや麻痺が生じる原因として、インプラントの埋入が適切に行われなかったケースや、手術前後の細菌感染などに加え、手術時に神経が損傷・圧迫された可能性もあります。
場合によっては「下歯槽神経麻痺(かしそうしんけいまひ)」という下顎骨を通っている神経の麻痺が残り続く症状が起こっている可能性もあるため、症状に応じて投薬やインプラント体の除去が必要です。
④インプラントの被せ物が壊れる
インプラント治療のトラブルとして、インプラント治療後に、被せ物(人工歯)が壊れてしまうことがあります。インプラントを埋め込む際に噛み合わせの調整が適切に行われていなかったり、「アバットメント」と呼ばれる、被せ物とインプラント体をつなぐ装置の締め付けが十分でないと、被せ物が破損するリスクが高まります。
被せ物が破損した場合、被せ物を取り外し、修復可能なら修理し、難しいなら被せ物を新たに作り直す必要があります。また、アバットメントに何らかの問題が生じている場合は、交換などの対応が求められます。
⑤上顎洞炎になる
インプラントのトラブルで上顎洞炎になることがあります。
上顎洞炎は、上の奥歯の根っこの上にある「上顎洞」と呼ばれる空洞にある粘膜が、炎症を起こす病気です。インプラントを埋め込む時にインプラント体が上顎洞まで突き抜けた後によるもので、歯の痛み、頭痛、鼻づまり(片側のみ)といった症状が起こります。
→上顎洞炎について詳しい症状や治療方法についてはインプラントネット「上顎洞炎(じょうがくどうえん)について」の記事をご覧ください。
2017年に発表されたアンケート結果によると、上顎洞炎はインプラント手術関連の重篤な医療トラブルの中で、最も発生件数が多いものとなっています。抗菌薬の投与が主な対処法となりますが、症状が重い場合はインプラントを除去したり、外科手術が必要になるケースもあります。
参考:インプラント手術関連の重篤な医療トラブルについて
⑥異常出血する
インプラント治療のまれなトラブルに異常出血があります。インプラント手術では、穴を開けるためにドリルを使用します。手術の際にお口の底や下顎を通る動脈を傷つけてしまった場合、大量出血が起こるかもしれません。
出血が起こった場合、圧迫止血で基本は対応します。難しい場合、電気メスなどを用いて出血ポイントを凝固させ、止血します。ただし、出血点が把握できないなど、歯科医院で対応が難しい状況下であれば、高度医療機関に搬送することになります。
インプラントのトラブルの相談先
インプラント治療のトラブルが発生した場合、治療を受けている歯科医院にできるだけ早く報告し、適切な処置を受けるのが最優先になります。解決が見込めないケースでは、以下の3つの相談先を頼ることができます。
他の歯科医院
インプラント治療がうまくいかなかった場合、他の歯科医院でセカンドオピニオンを受けることも選択肢の一つです。別の医院で状態を確認してもらうことで、問題解決の糸口を見つけることもできるからです。
別の歯科医院に足を運んでセカンドオピニオンを受ける際、インプラント治療に関する相談を依頼した経緯、インプラントの手術を受けた日時、費用などの重要な部分に関する説明を受けた際の状況、その際に受け取った資料などをあらかじめまとめ、スムーズに状況を説明しましょう。
→インプラント治療でセカンドオピニオンを考えている方はインプラントネット「インプラント治療でのセカンドオピニオンとは?メリットや費用も解説」の記事もご覧ください。
消費生活センター
インプラント治療に関するトラブルが起こった際には、消費生活センターに相談することも有効です。消費生活センターはサービスを含む消費生活に関する問い合わせを受け付けているため、インプラント治療も相談に乗ってもらえます。
局番をつけずに「188」という番号に電話をかければ、近くにある消費生活センターの窓口につながるようになっています。インプラント治療に際して、医療機関外の観点からトラブルに対処してほしい場合は、消費生活センターに助けを求めてみるといいかもしれません。
参考:消費者生活センター
インプラントネットの相談コーナー
インターネットを通じてトラブル解消の方法を見つけたい場合は、インプラントネットの相談コーナーに投稿を行う方法もあります。このコーナーでは、インプラント治療に関する患者さんの悩みに対して、全国の歯科医師が自らの知識を基に回答してくれます。
他の患者さんが投稿した質問を閲覧できる点も、インプラントネットの大きな特徴です。投稿テーマ別のカテゴリ分けが行われていることにより、自分が抱えている悩みに近い質問を確認しやすくなっているため、過去に行われた質問とその回答を参照することによって、自身の悩みを解決することができるかもしれません。
まとめ
インプラント治療の際には、インプラントが骨と固定されていない、インプラント周囲炎になる、麻痺・腫れ・出血などが生じる、といったトラブルが発生する場合があります。何らかのトラブルが発生した場合、速やかに治療を受けた歯科医院に連絡しましょう。
治療を受けた歯科医院に対して何らかの不満がある場合、他の歯科医院や消費生活センターに相談する方法もあります。
また、インプラントネットの相談コーナーでは全国の歯科医師が悩みに対する回答を行っています。さまざまな対策の中から自分に合った方法を選び、問題解決の糸口を見つけられるようにしていきましょう。
記事監修
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。