■目次
記事のポイント3つ
・インプラント治療ができない理由に、顎の骨の量(厚み)が足りない、歯周病にかかっている、持病がある、歯並びが悪い、年齢が若すぎる、喫煙習慣があるなどが挙げられる
・顎の骨の量が足りない場合、骨造成手術によって顎骨の量を補ったり、オールオン4やザイゴマインプラントといった治療で、インプラント適応になる可能性がある
・インプラントを入れられない場合の主な治療法に、入れ歯、ブリッジ、差し歯の3種類がある
インプラントができないと言われた理由
インプラントができない原因は多岐であり、必要な処置も患者さんで変わります。この項目では、インプラントを断られる理由となり得る6つの理由と対処法を解説します。
①顎の骨の量が足りないから
インプラント治療では、土台を埋め込む部分に十分な顎骨の厚みがあることが求められます。そのため、先天的に顎の骨の量が少なかったり、歯周病などで骨が吸収し痩せてしまったことで顎の骨の量が足りないなどの場合、インプラント治療を受けられなくなる可能性が出てきます。
対処法:骨の量を増やす手術を受ける
骨の量が足りなくても、インプラント治療を受けられます。具体的には、他の部分の骨を移植するなどし不足する骨の量を補う手術「骨造成」や、上顎の骨空洞の粘膜を上に持ち上げて骨を足す「上顎洞挙上術」で、インプラント治療が可能なケースがあります。
②歯周病があるから
インプラント周囲は、歯周病に近い「インプラント周囲炎」の症状が発生しやすいです。
インプラント周囲炎は歯周病菌が関わっているため、歯周病患者さんはインプラント治療を受けられないことがあります。
対処法:歯周病治療を終えてからインプラントにする
歯周病が原因でインプラント治療が受けられない場合、治療を受けることです。すなわち、インプラント治療前に歯周病の治療を受けて、お口の中の衛生状態を改善することによって、インプラントが駄目になるリスクを大きく軽減でき、安心して治療を受けられます。
③持病があるから
持病のある患者さんの場合、病気によってはインプラント治療を受けられない恐れがあります。
糖尿病、循環器系疾患、呼吸器系疾患、金属アレルギーなどの患者さんのインプラント治療が失敗するに伴うリスクが大きく高まります。
また、骨粗鬆症の治療薬を服用していると、外科手術で顎の骨の壊死を招く可能性があるため、インプラント治療が原則禁忌となっています。
対処法:かかりつけ医に相談する
持病のみでインプラント治療の可否を歯科医師が判断するのは難しいです。持病の担当医(かかりつけ医)にインプラント治療を受けたい旨を伝え、歯科医院と医院の間で情報共有し治療を開始することが大事です。
④歯並びが悪いから
歯並びが悪い場合、インプラント治療ができなくなる可能性があります。歯並びが悪いと、インプラントを適切な位置に入れられない可能性が高くなります。
インプラントの土台の部分が顎の骨に結合し固定されるため、一度埋め込むと動かせないため、噛み合わせの不良など後から取り返しのつかない事態を招くかもしれません。
対処法:歯科矯正を受ける
歯並びが悪い患者さんがインプラント治療を受ける場合、インプラント治療より先に歯列矯正を受けることが多いです。
歯列矯正を完了させて事前に歯並びの状態を改善しておけば、インプラントを適切な位置へ埋め込めるだけでなく、治療終了後の噛み合わせのトラブルなどを未然に回避することにもつながります。
⑤年齢が若いから
患者さんの年齢が中高生で若すぎる場合も、インプラント治療が出来ません。インプラントは顎の骨と結合するため、顎の骨がまだ発育途中だと、顎の骨の成長に支障が出るかもしれません。一度埋め込んだインプラントは後に動かせないため、より治療が必要です。
対処法:骨の成長が止まるのを待つ
年齢が理由でインプラント治療を受けられない場合、顎の骨の成長が止まる年齢まで治療を待つことになります。原則18歳を目処にインプラント治療を受けましょう。それまでの期間は、いったん入れ歯で対処することもできます。
⑥喫煙しているから
タバコに含まれるニコチンは、末梢の毛細血管を収縮させる特性を持ちます。それによって血行が悪化すると、顎の骨の血液の量も減少し、インプラントの手術を受けた後の傷や骨の治りが悪くなります。結果、インプラント体と顎の骨のスムーズな結合が妨げられ、インプラント治療の成功率も低下します。
対処法:禁煙する
喫煙習慣はインプラント治療の大きな妨げとなるため、インプラント治療前の禁煙が成功ポイントです。
喫煙はインプラント治療後の生着率や装置の寿命にも悪影響を及ぼすため、治療中と治療後も、禁煙を続けると良いでしょう。
骨が足りない場合に行われる骨造成手術の種類
骨が足りないことが原因でインプラントを入れられない場合も、骨造成手術を受けて骨の量を補うことができれば、インプラント治療が可能なケースがあります。実際に行われる骨造成手術には、以下の3つの種類があります。
サイナスリフト
サイナスリフトとは、上顎の臼歯部(奥歯)の上の「上顎洞」と呼ばれる空洞の骨が不足している場合、上顎洞の骨の粘膜を持ち上げて隙間を作り、その部分に骨を足す治療です。
足す骨は患者さんの身体の別の骨から採取するか、人工骨を使用します。上顎の骨の厚みが不足しインプラント治療が受けられないケースも、サイナスリフトで治療が可能になります。
ソケットリフト
ソケットリフトはサイナスリフトとは異なり、インプラント埋入部分の上顎洞の粘膜だけを持ち上げ隙間を作って骨を足す治療です。
サイナスリフトに比べて簡単で、傷が治るまでの期間も比較的短くなりますが、補填する骨の量が少ない場合に適応されるため、患者さんによっては受けられない可能性がある点に注意が必要です。
GBR法(骨誘導再生法)
GBR法は「骨誘導再生法」と呼ばれ、骨造成が必要な部分に「遮断膜」の特殊な薄い膜を配置し、確保した空間に円滑な骨の再生を促します。手術には移植骨を併用することも多く、汎用性の高い治療です。
骨が足りなくても可能なインプラントの方法
インプラント治療の中には、顎の骨が不足していても適応可能なタイプもあります。以下の2種類の治療法は、いずれも多くの歯を失ったうえで骨が足りないケースも、インプラント治療を可能にします。
オールオン4
オールオン4とは、4本のインプラントを埋め込んだうえで、その部分を土台にして入れ歯(上部構造)を装着します。4本のうち2本を斜めに埋め込むことによって、均等かつ広範囲に咬む力を分散できます。
多くの歯を失った患者さんへの適応が多く、短時間で手術を終えられ、普通の食事も手術の日から再開でき、費用負担も小さいです。
ザイゴマインプラント
ザイゴマインプラントは、通常のインプラントのように歯槽骨に埋入するのではなく、頬の骨に長いインプラント体を埋入します。頬の骨は顎の骨と違って痩せにくく、長いインプラントを埋めやすいです。
オールオン4と同じく、手術直後から固定が得られ、オールオン4の治療が難しい患者さんでも対応しやすい点が強みです。
インプラントができない場合の治療の選択肢
何らかの理由でインプラントができない場合、インプラント治療以外を選ぶ必要があります。この項目では、インプラントができない場合に失った歯を補う主な治療3つを紹介します。
入れ歯
入れ歯は「総入れ歯」と「部分入れ歯」の2種類に大別されます。部分入れ歯は残った歯にバネをかける装置です。
必要費用が他治療より比較的安く、治療期間が短い、取り外しが可能なメリットがあり、装着した際の違和感が大きい、噛む力が弱い、バネなどの金属部分が見えるため審美面が悪いなどのデメリットがあります。
ブリッジ
ブリッジは、失った歯の両隣の歯を削って人工歯を被せ、接着剤で固定する治療です。治療費をインプラントより安く済ませられる、治療期間が短い、装着時の違和感が少ない、入れた部分が目立ちにくく審美面の問題も小さいといった長所がある一方、両端の歯を削る点や、失われた歯が多い場合は適応できない点に注意が必要です。
差し歯
差し歯は、歯根に土台を差し込んで人工歯を装着することで、歯を失った部分を補う治療法です。インプラントは歯(歯根)がない時に適応するのに対し、差し歯は歯根が残っている場合に適応する点が異なります。
自由診療なら人工歯の色を天然歯へより近付けられる点はインプラントと共通しています。
まとめ
インプラント治療ができない場合、顎の骨の量が足りない、歯周病が進んでいる、持病がある、歯並びが悪い、年齢が若すぎる、喫煙習慣があるなどが理由として挙げられます。ただし、顎の骨が足りない場合、骨造成手術によってインプラント治療が可能になるケースもあります。
また、オールオン4やザイゴマインプラントにより、骨の量が足りない患者さんもインプラントができる可能性があります。
インプラントができない場合に必要な対処法は原因ごとに異なるため、担当医とよく相談し治療を受けましょう。
記事監修
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。