■目次
ソケットリフトとは
ソケットリフトは顎の骨を増やす手術の一種です。上顎の上方にある上顎洞という空洞の粘膜を持ち上げて、空いたスペースに患者さん自身の骨や人工骨を入れます。これにより、インプラントを埋め込むのに必要な骨量を作り出すことができます
ソケットリフトの適応症例
インプラント治療では、顎の骨に人工歯根を埋め込む手術が必要です。ただし、なかには顎の骨の高さや幅が足りない患者さんもいるため、インプラントを埋め込む前に顎の骨を増やす手術を行います。
ソケットリフトは、「上顎の奥歯の骨の高さが足りない症例」で用いられる方法です。
骨の高さが4mm~5mm以上あり、もう少し骨を増やしたいという場合にソケットリフトが適応されます。
顎の骨が不足した状態でインプラントを埋め込むと、インプラントが上顎洞に突き出てしまい、上顎洞炎という感染症を起こす恐れがあります。
ソケットリフトのメリット・デメリット
ソケットリフトを用いた手術を受けるべきかどうか、メリット・デメリットも把握したうえで選択しましょう。
インプラント治療が可能になる
歯を失ったまま放置していたり、義歯を長期間にわたって装着していたりすると、顎骨が痩せてしまうことがあります。また、腫瘍によって顎骨の一部を失ってしまった方もいるでしょう。
このような理由で顎の骨が足りず、インプラント治療ができないと言われている方も、ソケットリフトを用いることでインプラントを埋め込める可能性があります。
インプラント治療と同時にできる
ソケットリフトは、顎の骨を増やす手術とインプラントを埋め込む手術を同時に行います。一度にインプラントの埋め込みまで完了するため、治療期間の短縮につながります。ただし、顎の骨の状態によっては、インプラントを埋め込む手術を後日行うことになります。
体への負担が少ない
ソケットリフトと同じような処置に、サイナスリフトというものがあります。ソケットリフトは、サイナスリフトに比べて体への負担が少ないといえます。
ソケットリフトのデメリット
ソケットリフトのデメリットとして、以下のようなことが挙げられます。
インプラント治療とは別に費用がかかる
インプラント治療の費用に、ソケットリフトの費用は含まれていません。ソケットリフトが必要な患者さんは、インプラント治療の費用とは別にソケットリフトの費用がかかるため高額になります。
適応症例が限られる
ソケットリフトは、現在の顎の骨の高さが4mm~5mm以上ある場合に適応可能です。また、埋め込めるインプラントの長さにも制限があります。サイナスリフトに比べて適応症例が限られるという点には注意が必要です。
リスクが高い
埋め込んだインプラントが、上顎洞内に迷入してしまうリスクがあります。迷入したインプラントは炎症の原因となるため、摘出しなければなりません。
日本口腔インプラント学会が実施したアンケートによると、インプラント治療に関するトラブルは上顎洞に関するものが多いことがわかります。具体的には「上顎洞炎」「下歯槽神経損傷」「上顎洞内インプラント迷入」といったトラブルが上位3項目を占めています。
参考:日本口腔インプラント学会(図6_2012~2014)
ソケットリフトの費用と治療期間
ソケットリフトの費用は歯科医院により異なり、5万円程度が目安となります。また、治療期間は3ヶ月~6ヶ月程度で、サイナスリフト(6ヶ月~1年程度)よりも短期間で治療可能です。
参考:顎の骨を増やす骨造成手術の費用の相場は?
ソケットリフトとサイナスリフトの違い
サイナスリフトは、ソケットリフトと同様に上顎の奥歯の骨の量を増やす治療法です。サイナスリフトのほうが広範囲にわたってより多くの骨を増やせる、という違いがあります。
現在の骨の厚みが非常に少ない場合にはサイナスリフトが用いられますが、手術による体への負担が大きく、治療期間も長くなります。
以下、ソケットリフトとサイナスリフトの違いをまとめた表です。
ソケットリフトの流れ
ソケットリフトを行う場合、以下のような流れで治療が進みます。
STEP①歯茎を切開する
インプラントを埋め込む部分の歯茎を切開します。
STEP②骨に穴を開ける
ドリルを使い、インプラントを埋め込むための穴をあけます。ドリルが上顎洞に突き抜けないよう、事前に必要な穴の深さを確認しておく必要があります。
STEP③上顎洞粘膜を持ち上げる
形成した穴に専用器具を入れ、上顎洞粘膜を慎重に持ち上げます。治療箇所を目視できないため、粘膜を傷つけないように注意します。
STEP④骨補填材を充填する
できたスペースに、患者さん自身の骨や人工骨を充填します。
STEP⑤インプラントを入れる
最後にインプラントを埋め込み、歯茎を縫合したら治療完了です。
まとめ
ソケットリフトは上顎の骨が足りない場合に行われる骨造成法の一種です。骨が不足している人でも、ソケットリフトによってインプラント治療が可能になるケースがあります。また、サイナスリフトに比べて体への負担が少ない点も特徴です。
顎の骨が不足しているからといって、インプラント治療を諦める必要はありません。
記事監修
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。