「インプラント医療安全の推進行動」 - 第41回(社)日本口腔インプラント学会・学術大会
▲ 学術大会が行われた名古屋国際会議場
▲ 会場入口
第41回(社)日本口腔インプラント学会
2011年9月16日(金)から18日(日)の3日間にわたり、名古屋市の名古屋国際会議場において「第41回(社)日本口腔インプラント学会・学術大会」が開催されました。
昨年の同大会の約3,000名をはるかに上回る、約4,118名の歯科医師・歯科従事者が参加し、過去最多を記録しました。『インプラント医療安全の推進行動』をメインテーマに、昨今見られるインプラント治療における問題を懸念し、今一度インプラントを扱う歯科医師として安全・安心の治療へどのように取り組むべきか、ということに焦点を当て、多くの議論が交わされました。
※『日本口腔インプラント学会』は、日本の口腔インプラント学の振興・向上を推進することを目的とし、1986年に日本歯科インプラント学会と日本デンタルインプラント研究学会が合併して設立されました。現在、正会員数10,000名以上を誇り、年1回「総会・学術大会」が開催されています。大会では、多数の一般講演のほか、基調講演、特別講演、教育講演、シンポジウムなどが行われ、歯科従事者の知識や技能の研鑽・習得が図られています。
▲ メイン会場であるセンチュリーホール
今学会メインテーマである『インプラント医療安全の推進行動』をそのまま講演テーマとした「基調講演」を始め、インプラント治療で起こりうる問題や事前・事後の適切な対処法についての講演や、インプラント治療を始めて間もない若手の歯科医師や治療に携わる歯科医衛生士を対象にしたもの、新しい治療法や最新の機器の紹介とそれに取り組む際の注意点についての講演など、インプラント治療実績の増加に伴い、いかに安全に治療を行うかに視点をおいた講演が多く見受けられました。
下記に、本学会で特に注目を集めたプログラムの一部を簡単にご紹介いたします。
注目を集めたプログラム
- 【基調講演】 インプラント医療安全の推進行動
-
座長: 村上 弘 先生(学会大会長)
講師: 川添 堯彬 先生(学会理事長)「インプラント医療安全の推進行動」をテーマに、日本歯科医師会によって医療事故を未然に防ぐための指針を策定し(「歯科診療所における医療安全を確保するために」)歯科の中でも『医療安全学』という分野の重要性について認識を高める活動を積極的に行っていることをお話されました。今後、医療安全の推進行動を会員・非会員に関係なく、歯科医師全員で協力して患者様に安心を届け、また、インプラント治療を手がける者として、安全性を追求していきたいとしめくくられました。
- 【シンポジウム4】 学術・倫理委員会合同主催:骨移植材の現状と我が国における臨床応用の倫理的問題点
-
座長: 古谷野 潔 先生(九州大学大学院歯学研究院)
講師: 鬼原 英道 先生(岩手医科大学歯学部)、宮崎 隆 先生(昭和大学歯学部)、後藤 昌昭 先生(佐賀大学医学部)厚生労働省から認可のおりた骨補填材は極めて少なく、無認可のものについて歯科医師の裁量で広く利用されているのが現状。これらを背景として、骨補填材の安全性や患者様との関わりを議論する場となりました。
- 【鬼原先生】国内で認可のおりている数種類のハイドロキシアパタイト製材だけでなく欧米諸国で使用される骨補填材についても、使用する際には、その材料特性をよく熟知し、適応部位に最良の骨移植材を選択することすることが必要不可欠である
- 【宮崎先生】認可のおりている人工材料は同種骨や異種骨に比べて安全性が高いとされるが、吸収性の人工材料は薬事法で特定高度管理医療機器(クラスⅣ)に分類されており、厳しい評価を受けていることを忘れてはいけない
- 【後藤先生】未承認の医療材料は、有害事象が生じた場合に、医師の負う責任も非常に重いものがあるので、慎重な手順にしたがって使用しなければならない。
諸外国ではFDBA(凍骨乾燥移植骨)の感染例はないので、国内でももっと働きかけて、治療で使用できるように努力しようと発言があると、会場から多数の拍手が起こりました。
- 【課題講演】 T-6-4「新規骨移植材料の開発を目指した歯肉由来のiPS細胞の骨芽細胞分化誘導法の確立」
-
座長: 窪木 拓男 先生(大阪大学大学院歯学研究科)
発表者: 萱島 浩輝 先生(大阪大学大学院)個々の患者様から作製した人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、歯や歯周組織の再生医療の細胞源として期待されるが、iPS細胞を骨組織へ確実に分化させる技術は確立されていない中で、現在、歯肉由来iPS細胞を骨移植材料に応用する技術の模索をしている段階で、今回、質の良い口腔粘膜を作りだす技術について発表されました。
会場で発表を聞いた歯科医師から細胞移植が臨床で応用できることを待ち望んではいるが、長期的にみて安全なものを提供したい。長期的観察結果をまた学会などで報告し、検証する機会を設けて欲しい…と研究を奨励する声もあがりました。
- 【若手インプラントロジストのためのワークショップ】 保存か抜歯してインプラントか?
-
座長: 奥野 幾久 先生(大阪大学大学院歯学研究科)
講師: 瀬良 郁代 先生(大阪大学大学院歯学研究科)、桑鶴 利香 先生(九州大学大学院歯学研究院)、関 威夫 先生(関東・甲信越支部)、加藤 大輔 先生(愛知学院大学歯学部附属病院)4人の先生が手がけた症例を紹介しながら、保存または抜歯にいたった経緯とその結果・経過について報告するものでした。患者様の生活に関わる問題であるこの選択は、長期的安定を考慮し、分類表による基準を元に適切な治療計画を立て、予後におけるトラブルの想定までをすることが重要であると再認識を呼びかけました。
- 【イブニングセッション7】 インプラント材料とアレルギー
-
座長: 市川 哲雄 先生(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部)
講師: 池戸 泉美 先生(愛知学院大学歯学部)、渡邉 恵 先生(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部)池戸先生からは臨床から見たアレルギーについて、事前にアレルギーを持っていることが確実にわかることが大事で、反応が出てしまった場合には速やかに正しい手順に沿って除去をすることを推奨していました。
渡邊先生からは基礎から見たアレルギーについて、アレルギー反応を起こす経緯とともに、チタンが100%アレルギーを起こさないとはいえないとの報告がありました。チタンについては、細かくする技術が進まず、なかなか研究が進まないのが現状であると述べ、会場からは、日本のメタルフリー歯科の関心の希薄さから、この周辺の研究が進むことを願うという声が上がりました。
- 【臨床の疑問に答える】
-
座長: 萩原 芳幸 (日本大学歯学部付属歯科病院 歯科インプラント科)
講師: 重原 聡 先生(長崎大学医歯薬総合研究科)、春日井 昇平 先生(東京医科歯科大学歯学部附属病院)、中野 環 先生(大阪大学大学院歯学研究科)、中村 社綱 先生(インプラントセンター九州歯科診療所)、児玉 利朗 先生(児玉歯科クリニック)、前田 芳信 先生(大阪大学大学院歯学研究科)近年、複雑化するインプラント治療を行う臨床の現場から、『様々な迷い』あるいは『今さら人には聞けないけど、どうしたらいいのだろう』といった、様々な疑問や確認事項について、実際の失敗した症例などを踏まえて6人の先生が見解を発表されました。プロトコルの順守・徹底、スタッフとの連携、患者様との相互理解だけでなく、自身の実力の認識や合併症などの予測能力など、歯科医師の知識の部分をより強化することの必要性について強く意識する必要があると訴えられました。
メインの講演会やシンポジウムの他に、一般講演や課題口演など、多くの先生方によって様々な研究分野の成果発表を行う場を設けており、将来インプラント治療で活用されるであろう最新の研究について議論を交わす場となっていました。まだまだ研究途中の分野があり、早く研究が進むことを願っていると、現場で治療に携わる先生の生々しいご意見がどこの会場でも飛び交っていました。
▲ 立ち見となったセミナー会場の様子
▲ 講師によるセッションの様子
ランチョンセミナー
ランチョンセミナーは17・18日の2日間で、11のセミナーが行われました。ここでは拝聴することのできた2つのセミナーを取り上げます。
- 【ランチョンセミナー②】 インプラント医療45年ぶりの革命~光機能化技術によるインプラント治療のパラダイムシフト~
-
座長: 荻原 芳幸 先生(日本大学歯学部)
講師: 小川 隆広 先生(UCLA歯学部補綴学講座教授)、船登 彰芳 先生(5-D Japanファウンダー、OJ副会長)
共催: S.O.T international、ウシオ電機株式会社インプラント表面と骨との接着能力の低下を「チタンのエイジング」というが、これに対して約15分の紫外線照射を施すことでチタン表面の骨接触率を高めることが可能になったと研究成果に基づき、その効果と専用機器の使用方法などの説明が行われました。臨床での事例がまだまだ少ないが、大学でカリキュラムとして組み込まれていたりと、今後より広まることが期待できるものでした。
- 【ランチョンセミナー④】 医療安全に則した長期における安定を目指したインプラント治療~ヒューマンエラーをしないためのペーパーサージェリー~
-
講師: 鈴木 龍 先生(すずき歯科医院)
共催: 日本メディカルマテリアル株式会社医科では、何においても番号と名前の確認が行われるようになり、医療安全が浸透してきているが、歯科では「ヒヤリハット」が多く見受けられる。そのため、危機管理委員会を設置し、適切な事故処理と事故防止が必須であり「医療安全のシステム化・サイクル化」が大切と訴えられました。また、医療事故は初心者だけではなくベテランでも起こりうるヒューマンエラーだという認識を持ち、今一度、知識の向上、チームワークの強化、患者様とのコミュニケーションの強化、マニュアルの整備について、見直しの必要があることを強調されました。
その他、ポスター展示や、各メーカによる機器展示、テーブルクリニックなどが別会場で行われていました。
▲ ポスター展示会場の様子
▲ 機器展示会場の様子
▲ インプラントネットのブースの様子
※講演の発表内容については、当サイトにおいて必ずしも保証するものではございません。
第41回(社)日本口腔インプラント学会に参加して
今回の学会では、成功した症例を取り上げるのではなく、良い結果が得られなかった症例を多く取り上げて、その際の対処方法や未然に防ぐ方法を紹介するほか、インプラント治療に取り組む者の意識のあり方等を繰り返し説明し、様々な視点からの見直しが必要であることを訴えたものが多い印象がありました。臨床における事例発表では、立ち見が出るほど先生方が集まり、その様子を見て、いかに現場の先生が日頃悩みを持っているかということを感じると同時に、インプラント治療が簡単な治療ではないことを再認識し、改めて安全・安心に意識を置くことが大切であるということが伝わってきました。
今回の学会に参加し、インプラント治療がより発展していくことを願うとともに、インプラントネットにおいて患者様にとってより安全な情報を提供できるように努めて参りたいと思います。
次回、第42回大会は、2012年9月21日(金)~23日(日)に大阪にて開催予定です。
レポート:インプラントネット事務局